事業名:「しゃがぁカレッジ」創設

30年以上にわたり、北アジア地域のモンゴル人、カザフ人、トゥバ人たちの中で文化人類学・宗教人類学調査を続け、得た知識、情報を様々な形で提供し続けてきました。その活動の場をオンライン上に広げ、「しゃがぁカレッジ」として遊牧文化をより多くの人々に伝える取り組みをします!

助成使途:オンライン上のヴァーチャルカレッジ「しゃがぁカレッジ」創設のための機材購入費用

インタビュー:西村幹也さん(NPO法人北方アジア文化交流センターしゃがぁ 理事長)

講演する西村幹也さん


 

■現在の活動について教えてください

遊牧文化を伝えるためにできる全ての活動をしています

30年以上にわたり、モンゴル研究として現地でのフィールドワークと、情報紙「しゃがぁ」を発行、インターネットでの発信をしているほか、現地から遊牧民演奏者を連れてきてのコンサート、写真展、絵画展、文化講座、学会での発表など、遊牧文化・文明を知ってもらうために考えられること全てをやり続けてきました。コロナ禍でコンサートが開催できない間は、全国をまわって遊牧文化を紹介するトークイベントなどを中心とした活動をしてきました。僕の文化へのアプローチの方法や提供する情報は、フィールドワークをしっかり行い学術的な方法論に基づいた形で得てきたもので、オンライン上での講座などはそれなりの評価を得られているようです。
メインになるのはコンサート、イベント活動です。12年間くらいの間に800回を越えたかな。あとはモンゴルに日本人を連れて行くスタディーツアー。そして、遊牧文化博物館なるものを作るため、18年前に京極町に移住して開墾しました。道の駅では、遊牧民雑貨店を営みながら、自然との関わり方をプロデュースする目的もあって自分で採ってきた山菜やキノコも売っています。

■活動を始めるきっかけは?

モンゴル人の生き方を後世に残したくて

人間はどのように自然界と関わるべきであるのか?という問題意識を持って、シャーマニズムに興味を持ったことから文化人類学を学ぶようになり、大学でモンゴル語を専攻し、フィールドワークに行っているうちに、遊牧文化・文明というものを、後世に残さなければ人類史の大きな損失になるのではないかという思いにいたりました。
NPOを立ち上げたのは、演奏者招聘の際のビザ申請に便利だったことや、より効率的に幅広く、たくさんの方々に遊牧文化を知ってもらいたい思ったからでした。
モンゴル人の謙虚な生き方や、僕たちから見ると不自由な環境の中であるもかかわらず、すごく豊かな社会や生活がたくさん見えたので、小学校などでも子どもたちに「モンゴルっていうところはね…」っていう話もしてまわっています。
「しゃがぁ」っていうのは、羊のくるぶしの骨のことで、モンゴルの人にとっては豊かさを象徴するとても大切なものなんです。ジョイントという意味もあるので、自分の活動がそういうジョイント的なものになれますようにという願いを込めてつけた名前です。

-40℃の厳冬期のタイガでトナカイと一緒に年越しツアーでの移動風景

■小林董信基金の使途(活動内容)を教えてください

情報の集積と誰もが目的に応じて利用できるサーバーの構築に

遊牧文化のオンラインカレッジ「しゃがぁカレッジ」を創設します。既存のネットサービスだとコンテンツ管理による制限があるので、独自にオンデマンドサーバーを立ち上げたいと思っています。過去にやってきた文化講座を一つのコンテンツにして、見たいものを見てもらえる、フリーのもの、課金対象のものなど、自由に配信できるようにしたいです。
また、今までは僕一人で喋ってきましたが、若手の研究者にも育成を兼ねて話してもらえるような場所にしたり、失われようとしている貴重なモンゴル書籍をPDF化して閲覧ダウンロードできるようにもしていきたい。誰もがアクセスできるようなサーバー機材への投資を目的としています。

 

■1年後、自分自身の活動に対する希望はありますか?

サーバーへの情報構築作業と活動の継続

1年とかいうスパンでものを考えてなく、サーバーにコンテンツをどんどん増やして形にしていかなきゃならないと思っています。世界的にも僕しか持っていない映像、たとえばシャーマンの儀礼映像とか、それらをデジタル化して誰でも見られるようにしたいわけです。
ネットコンテンツだけでなく、手元には写真も10万枚以上ありますから、テーマごとにまとめたフォトブックをシリーズ化したり、フィールドワークでのインタビューなども公開できるようにまとめていきたいし…1年のスパンでは考えられないんです。
様々なデータをコンテンツにして、後の人が使えるものを残していくのが先に入った者の務めだと思っていますから、僕は出し惜しみはしません。
カレッジの講座としては、民話講座のための翻訳作業などもあって、とにかくアウトプットの準備をしていくぞ!ということですね。死ぬまでにやっておきたいこと、形にしなければならないものがたくさんあるんです。
私がモンゴルで企画運営するスタディーツアーでは、1週間ずっと馬に乗って移動したり、牧民宅にホームステイしながら人手が必要な作業を一緒にやったりなど、盛りだくさんの内容で楽しんでもらっています。もちろん、求めに応じて専門的なレクチャーをしながら現地に身を置いてもらうので、結構リピーターさんもいまし、ずっと企画してくれと頼まれるのですが、個人的には、自分の体力に少々不安があって、「これからのツアーを乗り切れるかな」など心配しながらも継続していきたいと思っています。

シルクロード文化祭(モンゴル&カザフ音楽、ウイグル&ウズベク、キルギスなどの民族衣装ファッションショー)

■現在、活動を進めるにあたって課題に感じていること、不安に感じていることは?

宣伝、収入源と僕の時間が限られてしまうこと

オンライン講座とNPO活動の宣伝を不特定多数に広く広報するにはどうしたらいいかが大きな課題です。運営にあたり、今は僕自身を支援してくれている人たちの口コミとかでイベントが開催され、その収入で運営しています。会報を発行して年会費をいただいていますが、会員数が50人程度で採算はとれません。会費をもらうことで、様々にこちら側に義務が生じ、結果、自由な身動きが取れなくなることは避けたいと思っているので、会費で安定収入を得るのはなかなか難しいところです。つまり各種講座、イベント収入で収益を上げたいのです。
僕一人で活動しているので、車に全てを積みこんで移動し、車に寝泊まりしながら僕自身が動かねばなりません。ところが、そうなると時間がなくなり、しなければならない作業ができない、健康不安にも陥るという悪循環です。収入源としてイベント時に開催する遊牧民族雑貨市場の物販の手伝い、写真や図書の整理など、ボランティアではなく対価が払えるようになったら頼みたいとは思っています。モンゴル語ができる人がいると、翻訳作業も頼めます。僕に時間ができると、お客さんの対応ができてより多くのことが伝えられるし、モンゴル人演奏者に頼まれている翻訳作業の時間もとれるようになります。何より蓄積している創作作業を進められます。それらを組織化していけるかというのも考えていきたいです。

 

■小林董信基金に対する期待

思いのある個人への支援を長く続けてほしい

僕のように強い思いを持っている個人は結構いるんですよ。でもなかなか助成対象にならない。事業費の半分の補助とかいわれても、その半分を出せないことも多いです。例えば、いいカメラが手に入るだけで撮れるものが違ってくるので、それを使ってできることが変わってきます。しかし、物品購入への助成はほとんどないのが現状です。道具が欲しい人はたくさんいて、それを使って何かをしたがっている人たちをいっぱい知っています。そういう人たちの思いを受けとめてくれる今回のような助成金は非常に稀有だと思うので、長く続けて応援していただけることを望みます。

 

■寄付者の方へのメッセージ

支援してくれた活動に関わり続けてほしい

寄付したらおしまいではなく、援助した人や団体がその先どうなっていくのか、結果をぜひ見ていただき、長く支え続けていただけたら、僕みたいな貧乏人がたくさん喜べるんじゃないかと思います。活動を見ていてくれて、援助を継続してくれるのが何よりうれしいです。現場のことを知ってくださっていた小林さんの遺志に賛同された寄付者のみなさんの意志にも反することなきようしっかりやらせていただこうと思います。

小学校で開催した遊牧民音楽を楽しむ会

小学校で開催した遊牧民音楽を楽しむ会

■伴走者より

聞いたことはあるけど、まだまだ馴染のない、けれども日本とのつながりが深いモンゴル。そのモンゴルの魅力に魅了され、私たちにモンゴルの音楽や文化・文明、人となり等を発信し続けてきたのが西村さんです。西村さんの話から出てくるモンゴルの姿はとても魅力的で、できるだけ多くの方に発信し続けていただき、知っていただきたいなと思いました。気軽に行けないような国・・・というイメージを持っていたので、より強くそう思いました。
今回の小林基金の使途は、より多くの人にモンゴルの魅力を伝えるための情報の集積と誰もが目的に応じて利用できるサーバーの構築に充てられます。そのことで、より多くの方々にモンゴルの魅力が伝えられ知ってもらい、活動を支援する方が増えていき、私たちとモンゴルとのつながりがより深い物になっていくことを心より期待しています。
現状では、西村さんお一人での活動が多く、限られた時間や収入減の中で最大限の努力をされているように認識しています。おそらく、日本でも数少ないモンゴル専門家のお一人だと思います。体に気を付けていただきながら、今後のご活躍を祈っています。

伴走者:丸藤競(函館市地域交流まちづくりセンター センター長)